「半年前は随分コケにしてくれたなァ」
男は、青年を羽交い締めにしながら耳元で低く囁く。
その言動はまるで過去の自分を知っているかのようだった。
「……っ俺を、知っているのか?」
己を知りたい青年は浅い呼吸も忘れて問い返すが、その一言が男の逆鱗に触れてしまい、さらなる追撃を喰らってしまう。
「俺が人間を辞めてまで生き延びていた間にテメェは全部忘れて寝てたのか……どこまでも俺をコケにしてくれるなァ!!」
応酬の末、やがて男は青年が記憶喪失であることを理解すると、不意に右手に嵌めていた二つの指輪を擦り合わせて甲高い金属音を鳴らした。
——キィィィィィィィィィィィン
「俺がテメェの脳みそ掻き混ぜて記憶を掘り起こしてやるよ!!」
金属音が鳴り止むとさっきまで人間だった男の姿は、異形の怪物へと変貌していた。
ハヴィル・アインス
半年前に鉱金でバイオテロを起こした首謀者。
テロの発動には成功したが、後に自身の居場所まで乗り込んで来た青年と交戦の末敗北する。
青年の尽力によってテロが終息した後も、瀕死の傷を庇いながら景都の捜査機関に見つからないよう身を隠し続けていたが、このままでは身が保たないことを悟り、自らバイオローグ化。
人間を超える生命力を手に入れたことで今日まで生き長らえていた。