第5話

「社宅は即日入居可。今なら入社祝金に10万も付けてやる。出所直後で金も無いだろ?」

 ざら半紙に印刷された簡素な求人票にアマネが目を通しているところに押掛がさらに補足する。

 社会経験どころか学校にも碌に通えずアルバイト経験も無いアマネには、この求人内容が明らかに異質であることを感じ取る感性が無かった。

「るーと営業って何? 学も教養も無い私にもできること?」

「あぁ、東殿川区内で仲良くしている”お友達”から金を集める簡単な仕事だ」

「そこでくたばってる奴の後釜になってくれってこと?」

「嫌なら断れば良い。またムショへ戻ってより重い罰を受けるんだな」

「どの道、私は捕まる身。小銭稼ぎにもならないわ」

「おいおい、ウチを見くびるなよ。区内で起こった殺人事件の一つや二つ。飯店の力で揉み消せる」

 流れるようなやり取りの中、押掛は仮にも法治国家の面前で突飛な言葉を口にした。

 アマネは試されていた。素直に刑務所へ戻って再度罪を償うか。実質的に街を支配している組織に就いて娑婆を謳歌する身になるか。

 サイレンの音が近づく中、暫し考えたアマネだったが、出所直後に目にした街の様相を思い出すと、自然と答えは導き出され押掛に肯定の意思を告げていた。

 アマネの答えを聞いた押掛は、手を差し伸べて地べたに座り込んだままだった彼女を立ち上がらせた。次に歓迎の声を掛けると思いきや、何も言わずに踵を返し台所へと消えて行くと、ガスのコックを押し捻り、胸ポケットに入れていた銀色に光る塊をアマネに向かって投げ渡す。

 アマネの小さい掌にひんやりとした程良い重みが伝わってくる。ただでさえ血生臭かった室内は食物を腐らせたかのような臭いが入り混じり混沌の環境と化していく。

 理解の追いつかないアマネの前に、押掛が台所から戻ってきた。いつもの癖で胸ポケットからタバコの箱も取り出そうとしていた彼が「いかんいかん」と手を止めると漸く一言、口を開いた。

「唯一の入社試験だ。お前の覚悟を見せてみろ」

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