『岡持医院』
押掛に紹介してもらった病院で、飯店が偽造した不正な保険証でも三割負担で診察をしてくれる言わば連中御用達の”闇医者”のいる裏病院。
「持病を拗らせておきながら、よく今まで動き回れたな」
ベッドに横たわり点滴を受けているアマネに、35歳の若き院長「岡持篤蔵」が問診票を見ながら声を掛ける。
その声色は関心というより疑問の色を帯びていた。
「常備薬も切らしていた状況下でよくもまあ……他に使ってる薬とかあるのか?」
「薬に入るのかわかんないけど」
そう呟くとアマネは点滴に繋がれていない左腕を動かしてポケットを弄ると、昨晩「尾」を発現させる為に使った空の容器を取り出し、岡持に渡した。
「ほう、エピペンか? 何の薬だ?」
「知らない」
「知らないってお前」
アマネは、茅蕗に貰った得体の知れない液体の出所を全く知らなかった。
わかっているのは、この液体を取り込むことで自分にもたらされる効力と、二年前に傷害罪で捕まった事件の時に使った物と同一であること。そして使用したのはその二回のみであること。
アマネは昨晩巻き込まれた事件の話と併せてエピペンについて知っていることを岡持に打ち明けた——が、彼はまるで信じようとしなかった。
「相手の動きを封じたりケツから尻尾を出せるだと? 外傷の回復が早いのは認めるが余りの出来事に幻覚でも見てたんじゃねえのか?」
「ケツじゃなくて腰から」
「似たようなもんだろ」
「医者が言っていい言葉じゃないだろ」
暫しの口論の後、時間を悪戯に消費していることに気付いた岡持は職務を理由に会話をやや強引に終わらせた。
不満げな表情を浮かべるアマネを他所に点滴が終わった後の処置や過ごし方を一方的に伝えると、踵を返し診察デスクへ戻ろうとする。
だがその時、不意に岡持が自身の足をもつらせたのだ。
「しまった」と言わんばかりの顔色で前のめりに体勢を崩す岡持に、アマネは咄嗟に左手の人差し指と中指を彼に向かって伸ばしていた。
祈るように呼吸を止めると、岡持の身体が床面スレスレでググッと止まる。
そのままゆっくりと接地させると、アマネは手を元通りにして大きく息を吸い込んだ。
「どう、信じる気になった?」
「あぁ、俺が悪かった」
アマネに助けられた岡持は上体を起こすと頭を下げた。

