第9話

「そのエピペンの中身、俺が特定しよう。お前さんの言う『尾』も見てみたくなった」

 自身の危ういところをアマネの「縛」によって救われ、認めざるを得なくなった岡持はこれまでと一変して協力的になった。

 余りの掌返しに流石のアマネも訝しんだが、本人曰く医者としての探究心を刺激されたとのことで、ひとまず協力関係を築くことにした——のは良いのだが、そのお陰で丸一日様々な検査に掛けられてしまい、病院を出る頃には日も傾いていた。

「互いにご苦労だったな。悪いが来週の水曜にまた来てくれ」

「構わないけど、その日にエピペンの中身が貰えると思って期待してても良い?」

「それは難しいな。今回の検査はあくまで『尾』を出す為に打ち込んだ”ブツ”が体内に残っているかどうかを調べる段階だからな」

「それは残念」と、アマネは口を尖らせる。そのまま別れを告げて帰ろうとした時、岡持が話を伸ばしてきた。

「何をそんなに焦ってる?」

「焦ってる? 私が」

——しまった。とアマネは思った。

 この医師に心を許しすぎていた。彼が闇の住人であるならば、今日の出来事を押掛に言わない筈がない。

「その力を何に使いたいのかって聞いてるんだが……飯店を潰す為に欲してるんならやめとけよ」

 岡持の揺さぶりにアマネは動揺の色を見せぬよう、敢えて彼の目をじっと見た。

 そのままたっぷりと間を取ると一言。

「まさか、飯店で成り上がる為に欲してるの」

 不敵な笑みを浮かべながら大胆に啖呵を切ると、足早に病院をあとにした。

 アマネの言葉に”嘘”は無い。

 連休最終日。

 その後のアマネは岡持から時折入る来院の要請に応じつつ、与えられた自由な時間のほとんどを家と図書館の往復に費やした。

 その間意外にも押掛から連絡や訪問等の接触もなく、比較的自由な時間を過ごせた……いや、泳がされているだけかもしれない。

 押掛の真意は分からないが、アマネとしては三週間もの連休を取ってまでやりたかった”準備”を整えることができ、明日の出勤日に備えて床に就こうとしていた。

 そう、飯店を三日で乗っ取る準備が。

 

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"空の出前箱"編STORY
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